熱中症の中で死亡や重い後遺症を残す可能性のある労作性熱射病では、深部体温を迅速に下げることが救命と後遺症を残さずに回復するために重要です。
そのため、労作性熱射病の救急対応の体制を整える上では、倒れてから(発症してから)30分以内に深部体温を39℃以下に下げるための早期発見・搬送・全身冷却の体制が鍵となります。
労作性熱射病に対する全身冷却として、国際的なゴールドスタンダードになっているのが、アイスバス法です。アイスバス法は、海外では、Cold Water Immersion(氷水浸漬)と呼ばれています。
今回の記事では、労作性熱射病の疑いがあるときの救急対応としてのアイスバス法のやり方について分かりやすく解説します。

熱中症に対する有効な冷却方法とは
熱中症の応急手当として一般的な冷却方法は、ケガをしたときに実施するRICE処置として用いるアイシング用のアイスバッグや氷嚢を首や脇の下、鼠径部などに当てるのが一般的です。
この冷却方法は、首や脇の下、鼠径部の近くを走行している比較的大きな動脈を冷やすことによって、体温を下げる方法(動脈アイシング)です。
チェックポイント
熱中症は、熱失神、運動誘発性筋けいれん、熱疲労、熱射病を総称した障害です。
熱射病以外の熱失神、運動誘発性筋けいれん、熱疲労に対しては動脈アイシングも効果的です。
しかし、労作性熱射病に対しては、30分以内に深部体温を39℃以下に下げなければならないので、効率良く深部体温を下げる方法を選択しなければなりません。

労作性熱射病について、下記の記事で詳しく解説しています。
動脈アイシングが深部体温を下げる効率
- 動脈アイシングでは、1分間に約0.03℃、体温を低下させます。
- 深部体温が40℃であれば、39℃まで下げるのに約30分、38℃まで下げるのに約60分かかります。
「39℃までに約30分だから大丈夫」と考えるかもしれませんが、実際に労作性熱射病になった人の深部体温は42℃まで高くなっていることが報告されています。
救護体制を整えるためには、悪いケースを想定して準備しなければなりません。動脈アイシングだけでは、労作性熱射病に対して有効な冷却法とは言えません。
労作性熱射病に対して有効な冷却法は、できるだけ広い体表面を冷却することです。
今回の記事で紹介する「アイスバス法では、1分間に約0.16℃、深部体温を低下する」と報告されています。

アイスバス用のバスが用意できない場合には、代用としてブルーシートを使うTACOという方法もあるので、下記の記事でやり方を確認してください。
労作性熱射病のゴールドスタンダード=深部体温のモニタリング+アイスバス法
アイスバス法では、効率よく深部体温を下げるため、必要以上に深部体温を下げてしまう可能性があります。そのリスクを少なくし、予後を良好にするために深部体温のモニタリングが国際的にはセットになっています。
海外では、労作性熱射病の疑いがある場合には、まず直腸温で深部体温を測定します。
深部体温の測定は、労作性熱射病の評価とアイスバス法を終了するタイミングの判断材料になります。
アメリカでは、アスレティックトレーナー(BOC-ATC)が直腸温を測定することができますが、日本では、スポーツ現場や職場などの病院外では医師のみが直腸温を測定することができます。
労作性熱射病のためのアイスバス法の手順

今回の記事では、深部体温を測定するステップもアイスバス法のやり方を解説する際に含めています。
繰り返しになりますが、日本では、スポーツ現場のような病院外では、医師のみが直腸温を測定することができます。
熱中症の重症と聞くと、ぐったりしている状態をイメージするかもしれませんが、労作性熱射病の場合には、中枢神経系の異常が特徴のため、暴れたり、暴言など救急対応をする人に対して、攻撃的になる場合があります。
本人だけでなく、労作性熱射病の疑いがある人の関係者も含めて、なぜ全身冷却する必要があるのかなど、事前にも説明することが大切です。
ステップ① ヒートデックの準備
ヒートデックとは、労作性熱射病に対して身体を冷却する場所のことです。
アイスバス用のバス、水道、氷、排水場所などの確保やプライバシーへの配慮をしながら設置場所を決めましょう。
アイスバスの水温の目安は、10〜15℃以下です。
ステップ② 深部体温の評価とアイスバス法の実施の判断(EAP発動)
労作性熱射病の疑いがあるときには、医師によって深部体温を測定します。
深部体温が40.5℃以上の場合または深部体温が40.5℃未満の場合でも、中枢神経系の異常があれば労作性熱射病を疑います。
労作性熱射病の疑いがある場合には、緊急時と判断し、EAP(緊急時対応計画: エマージェンシーアクションプラン)を発動します。
チェックポイント
労作性熱射病の疑い→EAP発動→アイスバス法の説明・実施
ステップ③ 役割❶ 溺れるのを防ぐ+説明
1人目の役割は、傷病者が溺れるのを防ぐことです。
顔が水中に沈んで溺れないように、大きなタオルを両脇の下から通して胸の前にかけ、傷病者の姿勢を保持し、安全面に配慮します。
アイスバス法の説明など、傷病者とコミュニケーションをとります。
可能であれば、経口補水液を飲ませるようにしてください。
ステップ④ 役割❷ アイスバスに浸ける
役割❶を果たす人が頭部に位置し、他の数名と傷病者をアイスバスの中に浸けるために移動させます。
傷病者が自分で立ち上がり、アイスバスに助けを得ながら自力でアイスバスに入れる場合もありますが、自分では立ち上がれない場合が多くあります。このとき、メッシュの担架用シートを利用すると便利です。
頭や手足などアイスバスに浸かっていない部分に関しては、タオルを氷水に浸して(アイスタオル)、冷却すると効率的です。
ステップ⑤ 役割❸ アイスバス内の氷水をかき混ぜる
体の表面の氷水が温くなって深部体温を下げる効率が下がる可能性があります。
常に冷たい水が皮膚の周囲にあるようにし、氷水が動くことによって、効率よく深部体温を下げるようにしてください。
ステップ⑥ 役割❹ 深部体温や血圧など継続的にモニタリング+記録
深部体温を下げすぎてしまうと低体温となるリスクがあります。また、深部体温が下がるのはかなり個人差があります。
深部体温を測定しながらバイタルサインなどの症状や時間経過などを記録してください。
深部体温に変化があるたびに体温と時間を記録してください。深部体温が急激に下がった場合には、しっかりと10cm奥まで入っておらず、直腸温が正確に測定できていない可能性があります。
ステップ⑦ アイスバス法の終了
深部体温が39℃以下になったら、アイスバスから引き上げます。
日本スポーツ協会では、深部体温を測定できない場合にアイスバス法をする場合には、「寒い」と言うまでと明記しています。
またはアイスバス法を開始してから20分後(深部体温が約3℃以上低下したと推定)にはアイスバスから引き上げる目安としています。
ステップ⑧ 15分間の経過観察
アイスバスから引き上げた後に、再度、深部体温が上昇しないか、低体温に陥らないかなどを評価するために、15分間は経過観察します。
ステップ⑨ 医療機関の受診
15分間の経過観察で問題がない場合には、臓器障害がないかを採血検査などで確認するために医療機関を受診します。
まとめ
今回の記事では、労作性熱射病に対するアイスバス法を解説させていただきました。
医師がいる、いないに関わらず、現場で労作性熱射病の疑いがある人が発生したときにどのような救急対応を実施するかを事前に決め、救護体制を整えておく必要があります。
また、どのような手順で労作性熱射病に対して救急対応をするのかについては、それぞれの現場に合った手順を安全マニュアルに明記することが大切です。
事前に救急対応の手順や救護体制を整えたけど、労作性熱射病の疑いが発生しなかったというのが一番いいということは言うまでもありません。
もしものための救護体制をしっかりと構築し、熱中症予防に取り組んでいただけたらと思います。