熱中症の中で死亡や重い後遺症を残す可能性のある労作性熱射病では、深部体温を迅速に下げることが救命と後遺症を残さずに回復するために重要です。

労作性熱射病については下記の記事で詳しく解説しています。
そのため、労作性熱射病の救急対応の体制を整える上では、倒れてから(発症してから)30分以内に深部体温を39℃以下に下げるための早期発見・搬送・全身冷却の体制が鍵となります。
労作性熱射病に対する全身冷却として、国際的なゴールドスタンダードになっているのが、アイスバス法です。アイスバス法は、海外では、Cold Water Immersion(氷水浸漬)と呼ばれています。
しかし、すべてのスポーツ現場や職場でアイスバス法のバスを準備することができるわけではありません。

アイスバス法について詳しく知りたい方は下記の記事を読んでみてください。
今回の記事では、労作性熱射病の疑いがあるときの救急対応としてのアイスバス法の代用となるTACOのやり方について解説します。
TACOとは
TACOとは、Tarp Assisted Cooling Methodの頭文字をとったものです。
タープとは、キャンプをやる人にとっては馴染みのあるものですが、下記のようなキャンプなどをしたときに屋根の役割(太陽の日差しや雨を防ぐ)を果たし、みんなでくつろぐためのリビングのような空間を作るために使われる大きな布のことを指します。

アメリカではタープの方が馴染みがありますが、日本の場合にはブルーシートの方が馴染みがあると思います。
TACOでは、このタープもしくはブルーシートを使って身体を冷却する方法です。
労作性熱射病のためのTACOの手順
TACOもアイスバス法と同じように冷やし過ぎてしまうと低体温となるリスクがあるので、直腸温を継続して測定できる医師がいる現場では、深部体温を測定しながら実施することが大切です。
深部体温や血圧などは継続的にモニタリングをして、バイタルサインなどの症状や時間経過などを記録するようにしてください。
ステップ① ヒートデックの準備
ヒートデックとは、労作性熱射病に対して身体を冷却する場所のことです。
TACOの特徴は、アイスバスよりも携帯性に優れているため、傷病者が倒れたところでも、氷水を用意することができれば可能です。
どのような水と氷を確保するかによってヒートデックの場所は変わってきます。
プライバシーへの配慮などを忘れずに、事前にどこにヒートデックを設置するかを決めましょう。
水温は9℃が目安です。
チェックポイント
水温が9℃の時にTACOを実施すると1分間に深部体温を約0.17℃下げることができる
ステップ② 深部体温の評価とTACOの実施の判断(EAP発動)
労作性熱射病の疑いがあるときには、医師によって深部体温を測定します。
深部体温が40.5℃以上の場合または深部体温が40.5℃未満の場合でも、中枢神経系の異常があれば労作性熱射病を疑います。
労作性熱射病の疑いがある場合には、緊急時と判断し、EAP(緊急時対応計画: エマージェンシーアクションプラン)を発動します。
チェックポイント
労作性熱射病の疑い→EAPの発動→TACOの説明・実施
ステップ③ ブルーシートの上に傷病者を仰向けに寝かせる
TACOの説明など、傷病者とコミュニケーションをとりながら、ブルーシートの中央に傷病者を仰向けで寝かせるようにしてください。
可能であれば、経口補水液を飲んでもらいましょう。
ステップ④ 少なくとも4名で四隅を持ち上げて、氷水がたまるようにする
氷と水を傷病者にかけた後は、ブールシートが重くなるため、比較的多くの人数が必要になります。
どれくらいの人数が必要になるかは、EAPのシミュレーション訓練で検証する必要があります。また、EAPのシミュレーション訓練では、一番体格のいい(身長、体重)人を傷病者と想定してください。
ステップ⑤ 水と氷をためる
水道水からホースを利用して水をためる場合には、傷病者にホースで水をかけながら、氷を入れるようにしてください。
ステップ⑥ ブルーシートの中の氷水をかき混ぜる
体の表面の氷水が温くなって深部体温を下げる効率が下がる可能性があります。
常に冷たい水が皮膚の周囲にあるようにし、氷水が動くことによって、効率よく深部体温を下げるようにしてください。
ブルーシートを持っている人たちが協力して、ブルーシートを揺らすことによって中にある氷水がかき混ざるようにしましょう。
必ず一人は傷病者の顔を見れるようにし、上体が上になるよう、少し斜めになるようにしてください。アイスバスと同様に溺れるのを防ぎましょう!
ステップ⑦ TACOの終了
深部体温が39℃以下になったら、ブルーシートを床に置き、傷病者を移動させます。
深部体温を測定できない場合にTACOをする場合には、「寒い」と言うまで、またはTACOを開始してから15分から20分後(深部体温が約3℃以上低下したと推定)には傷病者を移動させる。
ステップ⑧ 15分間の経過観察
ブルーシートから出た後に、再度、深部体温が上昇しないか、低体温に陥らないかなどを評価するために、15分間は経過観察します。
ステップ⑨ 医療機関の受診
15分間の経過観察で問題がない場合には、臓器障害がないかを採血検査などで確認するために医療機関を受診します。
まとめ
今回の記事では、労作性熱射病に対するブルーシートを使用したTACOを解説させていただきました。
医師がいる、いないに関わらず、現場で労作性熱射病の疑いがある人が発生したときにどのような救急対応を実施するかを事前に決め、救護体制を整えておく必要があります。
また、どのような手順で労作性熱射病に対して救急対応をするのかについては、それぞれの現場に合った手順を安全マニュアルに明記することが大切です。